心と体のアーユルヴェーダ通信

プラクリティとヴィクリティを識る:アーユルヴェーダ的自己診断の深化

Tags: アーユルヴェーダ, プラクリティ, ヴィクリティ, 自己診断, 体質

アーユルヴェーダは、私たち一人ひとりが異なる体質を持って生まれてくるという考え方を基盤としています。この生まれ持った体質を「プラクリティ」と呼びます。しかし、日々の生活、食習慣、季節の変化、人間関係など、様々な要因によって心身のバランスは常に変動しています。この現在の心身の状態を「ヴィクリティ」と呼びます。

アーユルヴェーダの実践において、このプラクリティとヴィクリティを正しく理解し、見極めることは、自身の心身の調和を保つ上で極めて重要になります。長年アーユルヴェーダに親しんでいる読者の皆様にとって、この二つの概念の区別とその応用は、セルフケアをより一層深めるための鍵となるでしょう。

プラクリティとは:揺るぎない個性

プラクリティは、受胎時のドーシャのバランスによって決定される、その人の生涯にわたる基本的な体質です。ヴァータ、ピッタ、カパのいずれか、あるいは複数のドーシャが優勢であるかによって、その人の身体的特徴、精神的な傾向、消化力、病気への罹りやすさなどが定まります。

プラクリティは基本的に変化しないとされています。これは、その人が生まれつき持っている個性であり、強みでもあり、同時に特定の傾向性(例えば、あるドーシャが優勢であることによる特定の不調への注意点)を示唆するものでもあります。プラクリティを識ることは、自身の本質を知り、どのような環境や習慣が自身にとって調和をもたらすかを理解するための出発点となります。

ヴィクリティとは:変化する現在の状態

一方、ヴィクリティは、プラクリティに対して、環境や生活習慣、食事などの後天的な要因によって生じた現在のドーシャの乱れやバランスの状態を指します。例えば、生まれつきカパ体質(プラクリティがカパ優勢)の人が、過労やストレスによってヴァータが増大している場合、ヴィクリティはヴァータの乱れとして現れます。あるいは、ピッタ体質(プラクリティがピッタ優勢)の人が、冷たいものを摂りすぎてカパが増大しているという状況も起こり得ます。

ヴィクリティは常に変化する可能性があります。季節や時間帯、年齢、さらには感情の状態によっても影響を受けます。アーユルヴェーダにおける病気や不調は、このヴィクリティ、すなわちドーシャの現在の乱れとして捉えられます。

なぜプラクリティとヴィクリティの区別が重要なのか

アーユルヴェーダ的なケアやアドバイスは、プラクリティとヴィクリティの両方を考慮して行われます。

  1. 適切なケアの選択: 例えば、ヴァータ性の消化不良を抱えている人がいたとします。もしその人のプラクリティがヴァータ体質であれば、ヴァータを鎮める食事や生活習慣は、単に現在の不調を和らげるだけでなく、その人の基本的な傾向に対して調和をもたらすことになります。しかし、もしその人のプラクリティがピッタ体質で、ヴィクリティとしてヴァータが増大している場合、ヴァータを鎮めるケアと同時に、ピッタのバランスも考慮に入れる必要があるかもしれません。現在のヴィクリティだけを見てケアを行うと、プラクリティとのミスマッチが生じ、かえって別の不調を引き起こす可能性も考えられます。
  2. 不調の根本原因理解: 不調が一時的なものか、それとも自身の体質的な傾向から生じやすいものなのかを理解することで、より根本的なレベルでのアプローチが可能になります。ヴィクリティはプラクリティの上に乗る現象であり、プラクリティの性質を知ることは、ヴィクリティの現れ方をより深く理解する助けとなります。
  3. 予防的なアプローチ: 自身のプラクリティを知ることで、将来的にどのような不調が現れやすいかを予測し、それを未然に防ぐための予防的なケアを行うことができます。そして、現在のヴィクリティを早期に認識することで、不調が深刻化する前にバランスを取り戻すことができます。

アーユルヴェーダ的自己診断の深化へ

プラクリティは、一度専門家の診断を受けて把握すれば、生涯の指針となります。しかし、ヴィクリティは日々の自己観察を通して敏感に察知する必要があります。

まとめ

プラクリティは揺るぎない自己の個性、ヴィクリティは変化する現在の状態。この二つの概念を正しく区別し理解することは、アーユルヴェーダの実践者にとって不可欠です。自身のプラクリティを羅針盤とし、ヴィクリティという現在の状況を正確に把握することで、私たちは自身の心身が真に必要としているケアを選択し、調和の取れた状態へと近づくことができるのです。日々の丁寧な自己観察と学びを通して、アーユルヴェーダ的自己診断をさらに深めていくことは、心身の健康と調和への確かな道となるでしょう。